グループトーク

GROUP TALK

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同じ医局で働く先生に、これまでに感じたことや患者さんへの思いを語ってもらいました。
リアルで奥深いこのグループインタビューは、精神科医の仕事をもっと知りたい方必見です。

まずは自己紹介をお願いします!

  • 渡辺

    気分障害に興味があり、大家である寺尾教授がいらしたので「ここしかない」と入局を決めました。
    1才の息子とギターを弾く(かき鳴らす)のが楽しみです。

  • 丸山

    山口の病院で研修した後に精神科医として産業医科大学に戻り、産業医大の吉村教授と大分大学の寺尾教授の縁で、専攻医の2年間を大分大学で引き受けてもらっています。釣りが好きです(海釣り)

  • 佐藤

    セカンドステージで回って診た患者さんとの関わりがきっかけで大分大学医学部に入局しました。
    趣味は温泉巡りです。

  • 大塚

    学んだ大学で研修にそのまま入りたいと思い、大分大学医学部での研修を経て、精神科に入局しました。
    趣味は旅行です。

精神科を選んだきっかけは?

小学生の頃剣道をしていたので、実は警察官になろうと思っていたんです。
そのころに、心理学者だった河合隼雄先生の本を読んで、とてもおもしろくて心理士に興味を持ちました。
親から「(医師になれば)薬が処方できるよ」とアドバイスをもらって、それが精神科医を視野にいれた最初のきっかけですね。

医学部に入っていろんな科を経験しましたが、基礎研究をしたりする中で公衆衛生におもしろみも感じましたし、初期研修で精神科と社会とのつながりの強さに気づいて、気持ちがまた精神科志望に戻ってきました。

研修医のころ、末期がんの患者さんを担当させてもらったことがありました。体もきついし日に日に弱っていくような状況でしたが、毎日お話を聞きに行っていると、「先生が話を聞いてくれるからうれしいわ。気持ちがすごく楽になるわ」と言ってくれて。

薬だけではなく、会話や言葉、コミュニケーションを通して患者さんを救って上げられる仕事もあるんだ、と気づいてから、精神科でもう少し勉強してみたいと思ったのが最初のきっかけですね。

私は、学生の時にセカンドの研修で回ったのが精神科を経験した最初でした。入局したきっかけは、皆さんのような決め手はなかったのですが…直感かな。



直感って結構大事だよね!

精神科医に抱いていたイメージ、ギャップや体験について教えてください

私は、研修先に選んだ病院に精神科がなかったので、実は、初期研修の1ヶ月しか精神科を経験していません。なので、イメージそのものがなかったです。
ただ、患者さんの中にはせん妄で暴れてしまう患者さんもいらして、当初は「怖い」という気持ちがありましたが、それがなくなりましたね。



なるほどね。

入局してまだ3ヶ月ですけれど、精神科を受診しなければならないような患者さんにお話を伺っていると、得体のしれないような何かから、だんだんと悩みなどが分かってくることもありますからね。

そして精神科は、公衆衛生とのかかわりがやはり大きいと実感しますね。
「退院後にどこにいくのか」というところから、その後の具体的な生活までイメージしてフォローするのは他科にはなかったかと思います。

僕が精神科に抱いていたのは、うつ病や統合失調症の患者さんのイメージが強かったですね。
うつ病に関しては、気分を崩して一時的に仕事に行けなくなるけれど、抗うつ薬などを使って、お話を聞いて、回復して復帰するという経過が多いのかと思っていました。

でも、実際に働いてみて一番に思うのは、退院した後のアフターケアが思ったよりも重要であり大変だということ。
本人が良くなったとしても、仮に入院前に家族ともめごとを起こしていた場合、家族としては退院をしてほしくないけれど医療者側としては退院させても良いくらいに回復している、というような、調整が難しいと感じる時はありますね。
難しい調整の中の落としどころを、ドクターや病院側が細かく設定する必要があるというのは、精神科独特な仕事なのかなと思います。

「退院後にちゃんと通院できるか」や「一緒に連れてきてくれる人がいるか」といったところですよね。
帰った先に誰がいて、その人が患者さんにどんな影響を与えているか。旦那さんとの関係が悪くて受診している人は帰らずにグループホームに入った方が良い、だとか、若い人で親と一緒にいないほうが良いケースもありますし。
仕事ができなくて生活保護を受けたほうがいい方など、ソーシャルワーカーさんが細かい調整をしてくれますが、そこで具体的なアドバイスをするというのは、他(の科)とは違うところでしょうね。



ソーシャルワーカーさんにお願いしてそれで終わり、ではないですしね。



実際に、その患者さんの人生に関わっていくという感じですよね。



予診段階で、家族構成から全部聞き出しますからね。



あれは精神科独特だよね。精神科にとっては当たり前のようにやっていることだけれどね。



家系図を書き出して、兄弟の年齢から居住地、それぞれの疾患まで全部情報をもらいますしね。

家族の職業や、患者さんが生まれた時から関わっている周囲の人たちのことをすべて尋ねますね。「小学生の時に友達はいた?」「お勉強はどのくらいできたかな」「部活は何してた?」とかそこまで聞きますね。



そんな質問をする科は他にないでしょうね。それもすべて生活がベースだからですよね。

現在はどんな業務についていますか?

僕は緩和ケアを担当しています。
治療が難しくなってきた患者さんの心と体の痛みを取り除くという目的ですが、麻酔科の先生と精神科、栄養部、薬剤師などとチームになって精神科として活躍する場もあります。

われわれ(佐藤・丸山・大塚)は入院患者さんの診察と、指導医に相談しながら薬の処方や治療計画を立てたりしています。
それから、当院は総合病院なのでリエゾンの取り組み対応も行います。他の科で診療している患者さんがせん妄になったり、他科の入院患者さんで不安を抱きやすい方がいれば相談にのるといった対応をさせてもらっています。

業務を通して感じることなどはありますか?

研修先の病院で担当した(精神科入局の決め手となった)患者さんは、生活保護を受けている大酒飲みの方でした。
治療して良くなっても、病院を抜け出したり、看護師にも怪訝(けげん)な態度をとったり。治療提案をしても怒って断られたりと、周りに対する反発が強い方でした。

それでも昔は、一級建築士で仕事もバリバリしていて、妻が本当に大好きで。妻のために頑張って生きているような方だったんです。愛する妻が亡くなってしまい、生きる意味を見失ってから生活を乱してしまって生活保護を受けるようになった。
患者さんの「今」は、たどれば辛い経験から引き起こされて、それが何年にも渡って続いて、心から身体まで壊してしまうんですよね。



そんなことがあったなんて話、初めて聞いたなあ。

僕もリエゾンで、その時たまたま調子が良くないような患者さんに話を聞いていた時に、会話の中からふと「実は30年来の悩みがあった」という話が出てきたんです。
それはデータで出てくるものではありませんし、僕と患者さんの間でしか起こらない現象なので、患者さんとのやりとりを通じて、その「きっかけになる時を待つ」ということになります。

そこで、実際に話を聞いてずっと抱えてきた辛さに共感を示すと、すごく笑顔になるんですよ。理屈としてはわかっていたけれど、あの笑顔を見ると「これが『話を聞いて患者さんが良くなる』ということなんだな」と実感しますね。

患者さんのちょっとした表情や反応は敏感になりますよね。気分の上がり下がりも日によって変わるし、そこは一進一退ですね。

長らく抱えていた悩みを聞くことで一時的に良くなったとしても、そのあとまた何かのきっかけで気分が落ちてしまうことが多いですよね。
精神科で診ている患者さんは、幼い頃のトラウマがあって、それを引きずっているような方もいて。
それを治してあげるのはとても難しいことなので、トラウマを抱えながらも楽しく生きて行けるような術を見出してあげる、一緒に考えてあげる、提案するというところが醍醐味でもあり難しさでしょうか。

身体疾患のように、例えばがんを切り取って終わりという話にはならないことがほとんどですから。患者さんと一緒に苦悩していくというのが精神科医なのかなと思いますね。

それから、私と丸山先生、大塚先生は指導医がいて、その元で一緒にやらせてもらっていますが、自分が「困ったな」と思った時、違う角度からの発想、アプローチが来ますよね。
「それは全然考えが及ばなかったな」「その切り口があったのか」と思うことがあります。

これまでの経験(歴)が違えば、患者さんを通して見えるものがやはり多いでしょうね。
上級医はアプローチの引き出しが本当に多いです。やはり、そこで経験の差は感じますね。

これからどんな精神科医になりたいですか?

僕は「また会いに来たいです」と言ってもらえる医師になりたいですね。
入院患者さんでも外来患者さんでも、治療したくて来ている人ばかりではなくて、治療をしたいと思っていない人でも、なんらかのコミュニケーションを通して「この先生に言われるなら薬を飲んでみてもいいかな」というような、少しでも治療につながるようなコミュニケーションができる医師になりたいです。

漠然とした目標ですが、周りを幸せにできる医師になりたいです。
人がなぜ生きているのかと考えたとき、それはやはり幸せになるために生きているのだと僕は思うんです。
その患者さんと家族や回りを取り巻く環境に僕が関わることで、少しでも幸せを提供できるような医師になりたいと思います。

臨床という点で考えると、患者さんはどうしても、こちらの努力を裏切るような行為をしてしまうのですが、それでも関係を切らない、近づきすぎず、でも遠くならない。
愛情をもってそばにいられるところを、僕は目指したいですね。

それから、受診できている人だけではなく、病院に来られない予備軍のような方が結構いると思うのです。単純に”予防”という観点ではなく、事情が許さずに治療や家族関係がなかなか定まらない患者さんもいます。
「物質依存によって、ある疾患の発症率が高まる」といったような研究もありますし、医療の大きなくくりの中で精神科がやらねばならないことがあるのではないか、という考えはありますね。
公衆衛生的・社会的要因や格差の側面ですが、自分のキャリアの中でそこまで手を伸ばせたらと思いますね。

上席の先生が「『きっと良くなるよ』と保障してあげることが治療につながる」とよくおっしゃっているのですけれど、これから学びと経験を積み上げていって「きっと良くなりますよ」と自信をもって患者さんに言える医師になりたいですね。



それ、ものすごくよくわかる!

薬物療法だけが精神科医の役割ではないと思っているので、声掛けの精神療法であったり、マインドフルネスや作業療法もそうですが、患者さん自身がその考え方を身に付けることで良くなることも多いので、自信を持ってそれを患者さんに提供できるようになりたいと思います。

インタビューお疲れ様でした!これからも頑張っていきましょう。

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