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気分障害から認知症へ移行する疾患についての研究(Mental GSK-3 disease)

うつ病と診断された患者さんの一部は、その後、躁病や軽躁を呈し、双極性障害と診断変更されることは広く知られています。特に若年で抑うつ状態を来した患者さんは、うつ病から双極性障害へと診断変更される可能性が高く(Geller et al., 2001)、さらに双極性障害は他の精神疾患と比較し、認知症を発症する危険性が有意に高いのです(Kessing et al., 1999)。このようなことから、うつ病→双極性障害→認知症という経過をたどる一群が存在すると考えられます。

遺伝的には、若年で発症するうつ病にはGlycogen Synthase Kinase (GSK)-3βのrs334555、rs11925868、rs11927974における一塩基多型(Single Nucleotide Polymorphism:SNP)が関連したとの報告があります (Saus et al., 2010)。先に述べたように、若年発症のうつ病は将来的に双極性障害と診断変更される可能性が高いため、これらのSNPはうつ病→双極性障害と関連する遺伝子である可能性があります。また、GSK-3βのrs334558におけるSNPは、うつ病、双極性障害、認知症のすべてに関連が報告されているため(Lin et al., 2017; Lin et al., 2013; Kettunen et al., 2015)、うつ病→双極性障害→認知症という経過に関連しているのかもしれません。ところで、GSK-3はタウ蛋白の異常リン酸化を促進することで神経原繊維変化を増やし、βアミロイドの産生も促進することで老人班を増やします(Dell’Osso et al., 2016)。したがって、GSK-3はアルツハイマー病発症を促進する方向に作用することが判明しているのです。他方、リチウムはこのGSK-3を阻害することが判明しており、双極性障害に対して有効なだけでなく、認知症の発症を予防する可能性が示唆されています(Terao et al., 2006; Forlenza et al., 2019)。つまり病因としてのGSK-3と、治療薬としてのリチウムが双極性障害においても認知症においても関連しているということになります。

以上から、私どもは「うつ病→双極性障害→認知症という経過を、偶発的にではなく、必然的にたどる特異的な一群が存在し、その背景にGSK-3が関与している」という仮説を考え、最近報告しました(Terao et al., Bipolar Disord, 2020)。この仮説が正しければ、この一群がいわゆる疾患単位として成立し、Mental GSK-3 diseaseと呼称できるのではないかと考えています。この仮説を検証する研究を始めたところです。